「すべてが終わったとき、あの公園で」

消失のDVD&BDの発売が決まったことをきっかけにこのシリーズについて思いを馳せていて、ちょうど劇場版公開記念のカバーがこの冬までだということにも背中を押されて、はじめて原作を読みました。アニメシリーズと劇場版を見たのなら5巻もしくは6巻を読むのが順当だと思うのですが、1巻まるまるの長編と聞いてこちらを購入しました。

劇場版「消失」のネタばれを含むのでご注意ください。


年末から気にしていた懸案イベントも無事にこなし、残りわずかな高一生活をのんびりと楽しめるかと思いきや、ハルヒがやけにおとなしいのが気に入らない。こんなときには必ず何かが起こる予感のそのままに、俺の前に現れたのは8日後の未来から来たという朝比奈さんだった。しかも、事情を全く知らない彼女をこの時間に送り出したのは、なんと俺だというのだ。未来の俺よ、いったい何を企んでいるんだ!?大人気シリーズ怒濤の第7弾!

http://www.kadokawa.co.jp/lnovel/bk_detail.php?pcd=200505000060


やはり5,6巻をよんでいないこともあってわからないところもありましたが、それでも概ね内容を把握し、楽しむことが出来ました。

わたしは特にどのキャラクターが、というわけでなく、SOS団という集団が好きだな、愛しいな、というのがアニメを見終わったときの感想で、そう思っていただけに映画を見たときは何ともいえない悲しさがありました。日々の中で長門が少しずつ澱を溜め込んで世界を変えてしまいたくなるほどに疲れてしまっていたことも、その変えた世界にSOS団が存在しないことも、何ともいえず悲しかった。その後ろに長門の淡い恋心(のようなもの)を感じても、それでも、キョンが元の世界を選び、「非日常」をSOS団のみんなと楽しんでいる自身を肯定したことに心強さを感じてました。なので、この「陰謀」でキョンのいうところの「SOS団という一つの同体なんだ」ということをより実感できたのがすごく嬉しかったです。

もうひとつ。この「陰謀」を読んで強く感じたのは、このお話におけるみくるは素晴らしく「ヒロイン」だなあということでした。このシリーズのヒロインはおそらくきっとハルヒであると思うのですが、そうとわかっていてもこのお話を読んでいると「ヒロイン」としてのみくるを受け入れ、「どうか無事に結末を迎えられますように」と願わずにはいられません。8日後の未来からやってきたみくると現在時間のキョンは、ハルヒにそれと気付かれないように朝比奈さん(大人)からの指令をこなし、2人は「2人だけの秘密の時間」を共有することになります。そして最終的にみくるは敵にさらわれ、とらわれのお姫様のもとに駆け付ける王子様さながらなキョン(と「機関」の人々)によって助けられます。そんなみくるはやはり、このお話の「ヒロイン」と呼ばれるにふさわしいはずです。

ですが、ここでそうやってキョンと共に過ごしている「ヒロイン」としてのみくるはあくまで「8日後の未来からやってきたみくる」なのです。現在時間に存在するみくるも未来人なのでややこしいのですが、つまり現在時間をSOS団として一緒にすごしている本当のみくるとはすこし異なる存在なのです。言い換えれば、異なる時空からやってきた本来のみくるとは少し異なるみくるだからこそ、「ヒロイン」であることが許されるのだと思います。そう考えたときに、「ああこれは『消失』と同じだなあ・・・」と気付いて切なくなりました。改変した世界の情報統合思念体ではない少女として「ヒロイン」となることをゆるされた有希。文芸部というキョンと2人だけの世界を作ろうとした有希。ラストで病院の屋上でキョンと対峙する長門は本当に美しく愛らしいけれど、もう「ヒロイン」ではないのかもしれない。そしてみくるも有希も、限定された空間や期限付きの日々の中でしか「ヒロイン」ではいられず、魔法がとければ、ただのSOS団の女子団員に戻らなくてはならないのです。シンデレラの魔法はその効き目が切れても王子様に見つけ出してもらえるけれど、彼女達は・・・。

いろいろ考えれば考えるほど切なくなって、谷川さんは罪つくりだな〜と思うのですが(笑)、TVシリーズを見たときに感じたSOS団という集団に対する愛は今でも大切に持っているし、団員自身と同じくらい、SOS団という集団が日常を楽しめる未来を護りたい・護られてほしいと願っています。